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学術委員会

日本建築仕上学会材料規格

1994. 3.25 制定
2015.12.18 改定

M-101:2015 セメントモルタル塗り用吸水調整材

1. 適用範囲
 この規格は,主としてコンクリートのような平坦な下地に対して現場調合や既調合のセメントモルタル等を塗り付ける左官工事において,下地の吸込み調整や下地とのなじみを改善する目的で,下地に塗り付けられる材料の品質について規定する。

 コンクリートを下地とする現場調合や既調合のセメントモルタル塗りをする前の下地が乾燥している場合には,適度の水湿しを施した後に塗り付けしなければならない。この場合,水湿しの代わりに昨今では施工性の向上を目的として市販されている合成樹脂エマルションの希釈液などで構成される材料を塗り付けることが非常に多い。

 このような目的で使用される材料を日本建築学会「建築工事標準仕様書JASS15(左官工事):第3版」では「シーラー」と定義していたが,材料製造業者では「接着増強剤」と一部命名しており,いずれも本材料を的確に表現しているとはいえない。そこで,日本建築仕上学会では「セメントモルタル塗り用吸水調整材」という名称を提案するとともに,本材料を適用したセメントモルタル塗りが剥落しているケースも見られるため,当該材料の品質基準を明確にした。現場調合や既調合のセメントモルタル及びポリマーセメントモルタル塗りに使用する吸水調整材は,本規格に則り品質の優れた材料を的確に選定することが望まれる。

2.材料
(1) セメントモルタル塗り用吸水調整材は,十分な耐アルカリ性や耐水性を保持しており,施工性に優れるポリマーディスパージョンを主成分とし,以下のような材料構成とする。
@ポリマーディスパージョン:本材料はアクリル系,酢酸ビニル系,エチレン酢酸ビニル系,合成ゴム系など,またはこれらの混合系とする。
A添加剤:増粘剤,消泡剤等の添加剤を混合する場合は,経時変化が少ないものでなければならない。
(2) セメントモルタル塗り用吸水調整材は,JIS A 6203:2015(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)に示される曲げ強さ,圧縮強さ,吸水率,透水量および長さ変化率の規定に適合するものとする。

 本材料はコンクリート表面に塗布して,現場調合や既調合のセメントモルタル及びポリマーセメントモルタル等の塗り下地に対する吸込みを調整して,接着性を確保するために用いられるものである。その目的を達成するためには,十分な耐アルカリ性や耐水性を保持していることが要求される。

  また,JIS A 6203:2015(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)に示される各種の物性に対する規定に適合するものとして,製品の品質を確保することとした。

 

3.品質
 セメントモルタル塗り用吸水調整材の品質は,以下のとおりとする。
(1)セメントモルタル塗り用吸水調整材は,製造後封緘されたままの状態で,温度5〜35℃,相対湿度75%以下の直射日光が当たらない場所に6 ヶ月間貯蔵した場合,著しい品質の変化があってはならない。
(2)セメントモルタル塗り用吸水調整材は4.に示す試験方法によって試験を行い,表1 の規定に適合しなければならない。
表1 品質基準

試験の種類 試験項目 規定
ディスパージョンの試験 外観 粗粒子,異物,凝固物等がないこと
全固形分 表示値±1.0%以内であること
吸水試験 吸水性 30 分間で1.0g 以下であること
接着強度試験 標準状態 著しいひび割れおよび剥離がなく,接着強度が1.0N/mm2 以上で界面破断が50%以下であること
熱冷繰返し抵抗性
凍結融解抵抗性
熱アルカリ溶液抵抗性




 本材料を使用する最大の目的は,セメントモルタル等の塗重ねにおける下地に対する吸込みを調整して接着強度を確保することにあるため,ディスパージョンの品質および吸水調整性能と併せて,標準状態および各種の促進劣化試験をした後の接着強度を品質基準とした。

4.試験方法

 4.1 試験室の状態
   試験室の状態は特に指示しない限り,温度20±2℃,相対湿度65±10%を標準状態とする。

 4.2 ディスパージョンの試験
   JIS A 6203:2015(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)に準じて試験を行う。

 4.3 吸水試験
   JIS A 6916:2014(建築用下地調整塗材)7.14 に規定する吸水試験を行い,30 分後の吸水量を求める。材料製造業者の標準仕様に準じて希釈した材料を試験用基板の表面に刷毛で均一に塗り付け,24 時間試験室に放置した後,吸水試験を行う。なお,吸水調整材の塗布量は材料製造業者の定める標準塗布量とする。

 4.4 接着強度試験

 (1) 試験に用いる材料
 セメントはJIS R 5210:2009(ポルトランドセメント)に規定する普通ポルトランドセメントとし,骨材はJIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)の11.3 に規定する標準砂とする。

 (2) 試験用基板
 試験に用いるコンクリート基板は,水セメント比50〜60%,スランプ18cm の建築工事における標準的な調合とし,コンクリートを練り混ぜた後,合板型枠で300 o×300 o×厚さ50 oの大きさに打設して,試験室中で48 時間養生後に脱型する。その後, 20±2℃水中で5 日間養生し,さらに,試験室中で21 日間以上養生したものを試験用基板とする。

 (3) モルタル
 試験に用いるモルタルの調合は質量比でセメント1,標準砂2 とし,フロー値が170±5 となるように水セメント比を調整して,JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)の11.5.2 の規定に準じて練り混ぜる。

 (4) 試験体の作製方法
 材料製造業者の標準仕様に準じて希釈した材料を(2)に規定した試験用基板の表面に刷毛で均一に塗り付け,試験室に24 時間放置する。なお,吸水調整材の塗布量は,材料製造業者の定める標準塗布量とする。次に,(3)に規定したモルタルを厚さ6mm に金ごてで塗り付けて,湿空(温度20±2℃,相対湿度80%以上)で48 時間養生した後,さらに試験室中で26 日間養生して試験体とする。

 (5) 試験体の数
 各試験に供する試験体の数は1 個とし,試験体1 個について5 ヶ所の接着強度を測定する。

 (6) 標準状態の接着強度試験
 (4)で作製した試験体のモルタル面を40×40mm の大きさで基板に達するまで切り込んだ後,JIS R 6252:2006(研磨紙)に規定するP180 研磨紙を用いて引張用鋼製ジグ装着面のモルタル表層部を研磨する。その後,JIS A 6916:2014(建築用下地調整塗材)の7.13 に規定される試験方法に準じて接着強度試験を行い,5 ヶ所の測定値の平均値を四捨五入して,小数点以下1 桁の値まで求める。

 (7) 熱冷繰返し抵抗性試験
 (4)で作製した試験体を表面温度が70℃になるように105 分間赤外線ランプを照射し,その後15 分間散水することを1 サイクルとして,300 サイクル継続する。ただし,水温は15±5℃,試験体1 体当たりの散水量は毎分6?とする。300 サイクル終了後,試験体を標準状態に24 時間放置し,(6)と同様にして接着強度試験を行う。

 (8) 凍結融解抵抗性試験
 (4)で作製した試験体を20±3℃の水中に15 時間浸漬,−20±3℃の恒温槽中に3 時間,70±3℃の恒温槽中に6 時間放置を1 サイクルとして50 サイクル継続する。50 サイクル終了後,試験体を標準状態に24 時間放置し,(6)と同様にして接着強度試験を行う。

 (9) 熱アルカリ溶液抵抗性試験
(4)で作製した試験体を水酸化カルシウム飽和溶液に浸漬して,80±3℃の恒温槽中に28 日間放置する。28 日経過した後,試験体を標準状態に24 時間放置し,(6)と同様にして接着強度試験を行う。

 本材料の品質を評価する試験方法は,できる限り既存の該当するJIS に準拠することを前提として設定した。
 基板に用いるコンクリートの設計基準強度は,通常の建築工事で広く用いられている27N/mm2 程度を目安とする。基板に用いるコンクリートの調合例を解説表1 に示す。

解説表1 基板に用いるコンクリートの調合例
(砂の粗粒率2.2,砕石の最大寸法20oにてAE減水剤を用いる場合)

水セメント比
(%)
スランプ
(cm)
単位水量
(kg/m3)
セメント
(kg/m3)
細骨材
(kg/m3)
粗骨材
(kg/m3)
50 18 186 372 679 1014
55 18 182 331 728 1014
60 18 179 298 759 1014

日本建築学会編;「コンクリートの調合設計指針・同解説」から抜粋

 
  • 1.) 接着強度を測定する試験用基板は解説図1 に示すように,側面に金属製または合成樹脂製の定規を当て,モルタルの塗り厚が6mm になるように粘着テープなどを用いて保持する。なお,定規はモルタル塗付け24 時間後に取りはずす。

  • 2.) 接着強度を測定する試験体の位置は,解説図2に準ずる。
  • 3.) 接着強度試験に用いる試験機の一例を解説図3に示す。
  • 4.) 接着強度試験後の試験体の破断位置は,解説図4に示す方法により記載する。

  • 5.) (7)の繰返し操作の途中で試験を中断する場合は散水終了後とし,試験期間は4 ヶ月を超えてはならない。また,試験中断時は試験体を標準状態に放置する。

  • 6.) (8)の繰返し操作の途中で試験を中断する場合は加熱終了後とし,試験期間は4 ヶ月を超えてはならない。また,試験中断時は試験体を標準状態に放置する。
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 5.表示
 セメントモルタル塗り用吸水調整材の包装または容器には,以下の事項を表示しなければならない。
 (1) 規格名称
 (2) 製造業者名および工場名またはこれらの略号
 (3) 製造年月日またはその略号及び使用可能期間
 (4) 正味質量
 (5) 全固形分
 (6) 使用方法
  @ 標準加水量
  A 標準使用量
  B 塗布後のモルタル塗りまでの養生時間
 (7) 注意事項
  @ 使用後は容器のふたを密閉して保管する。
  A 直射日光の当たる場所や湿度の高い場所は避けて保管する。

引用規格
  JIS A 6203:2015(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)
  JIS A 6916:2014(建築用下地調整塗材)
  JIS R 5210:2009(ポルトランドセメント)
  JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)
  JIS R 6252:2006(研磨紙)